2007年03月07日
【転載】債券及び金利先物取引の解説
はじめに:
先物取引とは、ある資産(「原資産」とよび債券、金利、株式指数、為替、商品等があります)を、現在取り決めた価格で、将来のある時点に受渡すことを約束する取引です。同様の取引に先渡し(フォワード)取引がありますが、先物取引は取引所に上場された取引である一方、フォワードは個別に当事者間で相対契約される取引です。従って、先物取引には先渡し取引のようなカウンターパーティーリスク(相対取引において相手方が取引義務を履行しないリスク)がありません。
本稿では、債券及び金利先物取引の仕組みを、特に日本の商品を例として解説するとともに、先物取引が債券運用の戦略構築においてどのように用いられているかを紹介します。
債券先物取引の概要
日本では、中期国債先物(償還期限5年、クーポンレート3%)、長期国債先物(償還期限10年、クーポンレート6%)が東京証券取引所に上場、取引されています注1。ただしこれらは実際に発行されている国債そのものではなく、あくまで架空の債券を対象とした債券先物であり、「標準物」と呼ばれます。
また、先物取引における受渡し期日を「限月(げんげつ)」と呼び、3月、6月、9月、12月の限月があります。3月の限月の先物は「3月限(ぎり)」と呼びます。それぞれの限月の20日が受渡日となります。
注1:超長期国債先物(償還期限20年、クーポンレート6%)は平成14年12月限月以降、新たな限月取引を休止。
先物取引の決済の仕方には、①受渡方式と、②差金決済方式があります。
①受渡方式
実際に先物の期日に現物債券を受渡す取引で、それぞれの限月の先物に対して、受渡しに使うことのできる「適格銘柄」の国債が指定されています。中期国債先物では「残存4年以上5年3ヶ月未満の5年利付国債」、長期国債先物取引の場合、「残存7年以上11年未満の10年利付国債」が受渡し銘柄の条件に指定されています。適格銘柄となる現物債券は通常複数存在しますが、それらの価格は必ずしも同一ではないため、それぞれの転換比率(conversion factor)が設定されています。受渡銘柄は債券を受渡す側(先物の売り手)が決めることができます(delivery option)が、そのうち最も売り手側に有利な条件となる銘柄を「最割安銘柄」ないし「CTD(Cheapest To Deliver)」と呼びます。最割安銘柄とは、すなわち、「先物価格×(受渡銘柄の)交換比率-(受渡銘柄の)現物市場価格」が最大となる銘柄を指します。
(図1)7月1日に9月限の先物を買い建てる場合
②差金決済方式
差金決済は、先物取引と期日までに反対売買を行って、その差益(損)分のみ決済する方式です。
例えば、2006年9月限月の長期国債先物を7月1日に100円で額面1億円分注2買い建てた後、仮に8月1日時点でこの国債先物が100円10銭に上昇していたとすれば、これを売却して決済することで、差益10万円 <(100円10銭-100円)× 1億円÷100=10万円>を得ることができます。逆に、先物を売り建てた後、当該先物価格が下落すれば、これを買い戻して決済することで差益を得ることができます。
注2: 東証の売買単位は額面1億円、また額面100円について1銭です。
(図2)7月1日に9月限の先物を買い建て、8月1日に反対売買を行う場合
債券先物の理論価格
債券先物の理論価格は、現物債券保有との裁定収益機会がない状態という前提に基づいて、以下のように定義することができます。
債券先物価格 = 現物債券価格 -(クーポン収入-資金調達コスト)
例えば、短期金利が年率2%、債券クーポンレートが年率3%のとき、現物債券価格100円(額面も100円とする)に対する1年先決済の先物の理論価格は100-100×(0.03-0.02)で99円となります。
仮に先物価格が101であれば、投資家は、現時点で先物を売却する一方、上記短期金利で資金調達をして現物債券を購入すれば、1年後に2円(101-100+3-2=2)の益を得ることができます。
逆に、先物価格が97であれば、投資家は現時点で先物を買い、現物債券を売却(空売り)して上記短期金利で貸出(運用)すれば、1年後にやはり2円(100-3+2-97=2)の益を得ることができます。
なお、上記式において、「クーポン収入-資金調達コスト」を「キャリー(carry)コスト」とよび、現物債券価格と先物価格の差を「ベーシス(basis)」と呼びます。先物の受渡し期日が近づくにつれ、現物と先物の価格差は収斂するはずですので、ベーシスは最終的にはゼロに近づいていくと言えます。
ベーシス=現物価格-先物価格
このベーシス注3の幅の変化にかける取引を「ベーシス取引」と言います。
仮にある時点におけるベーシスが、投資家が適正と考える水準よりも大きく(すなわち現物が先物に比べ割高)、いずれベーシスは適正水準まで縮小すると考える場合、投資家は現物債券を売却すると同時に先物を購入するポジションを構築すれば、将来実際にベーシスが縮小した場合、利益を得ることができます。反対に、ベーシスが拡大する(すなわち先物が現物に比べ割高)と考えるとき、現物債券を購入し先物を売却するポジションを構築すれば、実際にベーシスが拡大した場合、利益を得ることができます。
注3: 厳密には、実際の先物受渡時には交換比率が存在するため、ベーシス=現物価格-先物価格×交換比率、となります。
債券運用における先物取引の利用法
(1)現物債券のヘッジ
現物の国債を保有している投資家は、同時に先物を売り建てることで、仮に現物国債の相場が下落した場合に損失をある程度回避することができます。これを「売りヘッジ」と呼びます。逆に、「買いヘッジ」とは、今後現物国債の購入を予定している場合、現時点で先物を買い建てておくことで、現物国債の購入までの相場上昇に対するヘッジ効果をもたせることができます。
(2)現物債券の代替保有
国債先物を保有することで、同年限の現物国債と同様の金利リスクをとることができることから、先物は資産運用において現物国債保有の代替手段として利用することができます。特に、先物は上記に挙げたような価格下落に対するヘッジ手段としてのニーズが高いことから現物債券に対して割安となることがあるため、PIMCOでは先物のほうが現物債券よりも割安と判断すれば、現物債券の代わりに先物を保有し、アクティブ運用の超過収益源泉の獲得を狙う戦略とすることもあります。
(3)上記以外の投資手法
先物の理論価格およびベーシス取引の欄において触れたように、投資家が、先物実勢価格が理論価格からの一時的な乖離しているとみるとき、現物と先物の売買を組み合わせて(すなわち、割高とみる方を売却し割安な方を購入して)利益獲得をねらう取引を行うことができます。こうした投資収益獲得のための取引には、上記のようにベーシスの拡大・縮小といった方向性にかけるもののほか、限月間スプレッドにかけるものもあります。限月間スプレッド取引とは、例えば10年標準物先物で、3月限月と6月限月の価格差(スプレッド)の方向性にかける取引です。
更に、先物はレバレッジをかけるためのツールとして利用することもできます。先物取引はあくまで将来の期日における取引を約束したものであるため、先物取引を約定したとしても、現時点において決済資金は必要としません。投資家は先物の額面に対して通常数%の証拠金を差し入れるのみで約定ができます。ここで、先物で国債の金利エクスポージャーをとりながら、手元に残った資金を別の現物債券あるいは株式など他の資産にも投資すれば、元手資金額面以上のエクスポージャーをとっていくこと、すなわちレバレッジをかけることが可能です。
なお、レバレッジをかけることにより、投資エクスポージャーが拡大し、損益の程度が大きくなるため、先物取引即ち投機的取引と考えられやすい傾向があります。しかしながら、先物取引は、レバレッジを回避するような適切なリスク・コントロールのもとで利用することにより、ポートフォリオ全体のリスク・リターン特性を向上させる重要なツールとなります。
因みに、PIMCOでは、先物などデリバティブのネットエクスポージャー注4について、かかるエクスポージャー相当の現金同等資産(CP等のデュレーション1年以下の債券)を担保資産として保有することでレバレッジを回避することを一般的な運用スタイルとしています。先物の利用にあたっては、そのポジション、エクスポージャーを確実に把握し、管理、運用する能力が必要となります。注5
注4:ロングとショートの差。先物であれば買建て額と売建て額の差。
注5:PIMCOでは、お客様のご希望があれば、レバレッジをかける運用もご相談に応じます。
金利先物の概要及び利用法
金利先物取引とは、現時点において、将来のある一定の日から始まる金利レートを約定する取引です。日本では、東京金融先物取引所にユーロ円3ヶ月金利先物が上場されており、「2006年9月限」であれば、2006年9月にスタートする3ヶ月物円金利(TIBOR)を取引します。
金利先物価格は「100-金利(%、年率)」と表示されています。従って、金利が上昇すれば金利先物の価格は下落、逆に金利が低下すれば金利先物の価格も上昇します。
運用者が、3ヶ月物金利について今後低下すると考える場合、金利先物を買い建て、予想通りに金利が低下すれば金利先物の価格は上昇しますので、反対売買(売り建て)を行って、利益を得ることができます。なお、金利先物では受渡し決済は行われず、反対売買または最終取引日における清算値での差金決済を行います。
(図3)金利低下を見込んで金利先物を買建てる場合
このように金利と債券価格の動きは表裏一体の関係にあります。すなわち、金利が上昇するとき、債券価格は下落し、金利が低下するとき、債券価格は上昇します。従って、金利先物は、債券運用において、債券と同様に金利の動きに対する戦略を構築するためのツールとなりえます。注6
注6:PIMCOでは、お客様ガイドラインにおいて許容されている場合のみ、利用いたします。
将来の価格予測指標としての活用
債券・金利先物市場は既に非常に流動性の高い成熟した市場となっており、先物価格には先物市場参加者による将来の債券価格(すなわち金利水準)予測値が織り込まれていることから、先物は市場による予測値を反映する指標としても重要な役割を果たしています。
以下のグラフは2006年7月19日時点のユーロ円3ヶ月金利先物とスポット3ヶ月金利の差(スプレッド)を示していますが、これは、市場が今後の日銀による金融政策をどのように織り込んでいるかをみるための一つの指標となります。例えば、2006年12月限のユーロ円3ヶ月金利先物とスポット3ヶ月金利の差は約20bps程度となっており、市場が再利上げをある程度織り込んだ水準で金利の取引を行っていることが窺えます。
(図4)ユーロ円3ヶ月金利先物とスポット3ヶ月金利のスプレッド
まとめ
以上のように、今日、先物取引は債券運用において非常に有効なツールとなっています。先物取引を利用することにより、現物債券価格のヘッジを行うことができるほか、現物と先物間での価格の歪みをとらえ、収益獲得を狙うことも可能となります。また現物債券の代替として、運用者が狙ったエクスポージャーを先物でとることを可能にします。更に、市場が織り込む将来価格についての指標としても先物は重要な役割を果たしています。
参考資料:
東京証券取引所ホームページ
東京金融先物取引所ホームページ
日本証券アナリスト協会編 「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」
- by
- at 17:30
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